作:桜川慈悲成
画:歌川豊国
翻刻:尾崎名津子
脚色:神木優
出展:国立国会図書館
「桃太郎大江山入」というタイトルから想像できるように、桃太郎と酒呑童子の物語がコラボした作品。
大江山の酒呑童子を退治するのは、源頼光とその四天王。
四天王の中にいる坂田金時はいわゆる金太郎。
この物語ではなんと、桃太郎と金太郎がコラボするというなんとも面白い構成になっている。
桃太郎のお供はイヌとサルとキジとは限らない!!
表紙。
昔々、おじいさんとおばあさんがおりまして。
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行くというお馴染みの物語。
ある日、12歳になった桃太郎(左)は両親に伊勢参宮をしたいと願い出た。
そして、きみだんごを持たせてもらって出発!
江戸を出発し(始まりは江戸!?)本芝(芝公園あたり?)を過ぎ、田町を過ぎ、高輪も過ぎて品川にやって来た頃、日が西に沈んできた。(そんなに進んでないね。)
ここから先、鈴ヶ森は危険なので、ここで宿を取ったほうがいい、という助言を受けるもいうことを聞かず強行突破。
そんな桃太郎の強情な姿を見た野良イヌは、面白がってか付いて来た。
鮫洲を越えて、鈴ヶ森へ差し掛かった時、15匹くらいのムク犬が襲いかかって来たが、桃太郎はあまりに強く返り討ち!
物の陰から見ていたイヌは桃太郎の強さに感動し、恐れ多くもあなたの伊勢参りのお供にしてくださいと乞い願い、きみだんごをひとつもらってお供になった。
道すがら山サルとイノシシがいるところを桃太郎が通りかかり、傍にあった大きな石を桃太郎が持ち上げるとその怪力っぷりに感心し、サルとイノシシもお供になった。
途中、桃太郎の路銀を奪ってやろうと摺針峠(彦根市)で企む盗賊たち。
しかし、逆に返り討ち!
頭巾を剥ぎ取ってみると、人ではなくクマだった!
クマは桃太郎の力量に感心し、桃太郎に同行することになった。
(殺しにかかって来た相手を仲間にする懐の深さ!?)
伊勢参りの途中でまどろんでいると、神の思し召し、夢を見た。(よくあるパターン!?)
丹波の大江山へ向かって、ひってん童子を退治してほしい!(ひってん童子というパロディの仕方!?)
京都に入るとサルが案内役を買って出た。
ここにはサルの兄弟がたくさんいるので、(原文にはここにはサルが33333匹ほどいる、と書いてある!?)しばらくここに逗留して作戦会議。
結果、山伏の服装に変装をしようということになった。
愛宕山で参詣し少し休んで、「大江山はどこだろう」と思っていると一人の老人がやって来た。
大江山の場所を教えてくれて、さらに力を進ぜよう!と自分の血を酒に浸して桃太郎に飲ませた。
桃太郎が飲んでいる間に、白雲にまたがり消えていった。
この老人こそ、実は坂田金時である!
(こうなってくると、金太郎の方が桃太郎よりも強いということになる。原文には、わざわざ桃太郎の物語に金太郎を出すこともないのだが、こんなに強いものがいなければ鬼退治などできないであろうと考えた、作者の粋な計らいなのであろう、と記されている。自分で書いておいて自分の想いを文字で書いちゃってる!?)
老人に聞いた道を進んでいくと、キジとウサギに出会った。
「何故泣いているのか?」と聞くと、「この奥にいるひってん童子に食べられてしまうのです。今日が最後の命、悲しくて泣いているのです。」という。
(ここがこのコラボの面白い交わりのシーン。キジのところには「いつもは桃太郎のお供なのに今回は女型とは馬鹿らしい」と書いてある。)
いよいよひってん童子のところへたどり着いた一行。
まずは、サルとイノシシが門のところに行って交渉。
迷ってしまい、宿を探している。酒を振る舞うので一晩泊めてもらえないか?
ひってん童子に取り次ぎ願いたい!と。
門番はひってん童子に仔細を話すと、童子は迷った山伏なら仕方ないだろうと、泊めることを許可。
酒の席では、イヌが三味線を弾き、クマは太鼓を鳴らし、サルはそれに合わせて踊った。
桃太郎はひってん童子に酒をどんどん振る舞い、童子はどんどん酔っていく。
ひってん童子もろとも酒に酔って寝てしまったので、桃太郎一行はよしっ!と身を固めてひってん童子を取り押さえた。童子は今後は悪いことはしない、善行を尽くすと約束したので、許してやった。
そもそも悪人が宝物を持っているわけもなく、桃太郎は何を持ち帰ったわけでもない。
桃太郎たちが得たたくさんの宝物は、桃太郎たちが善行をしたことによる恵みを得て手に入れたものである。
いずれにせよ、宝物を得て、その後幸せに暮らしたのである。
1795年 桃太郎大江山入
【所感】
桃太郎と大江山・酒呑童子物語がコラボした快作。
本来の酒呑童子物語の主人公、源頼光と四天王に準えて、桃太郎(源頼光)とサル、イヌ、イノシシ、クマ(四天王)になっているのだろうし、
桃太郎からはイヌとサル。金太郎からイノシシとクマがお供になって、バランスも保たれているんだろう。
キジもクスッと笑える登場の仕方で、本来のお供三種類、桃太郎らしさを完璧に整えている。